わかっているから質問する

もう20年ぐらい前になるけれど 、あるホテルで一般の人を対象に寿司の作り方をレクチャーしたことがある 。

そのホテルのレストランのメインシェフと事前に何度か打ち合わせをして、私は当日配る資料を作ったりレクチャーの準備をした。ホテルのメインシェフは、ホテル内に会場を準備して、イベント詳細を決め、広報をしてお客さんを集めてくれた 。当日は50人ぐらいが集まったと思う。

その寿司レクチャーが終わった後、そのホテルのメインシェフとイベントを振り返るミーティングをした。彼はこう言った。

「最後に質問はないですかと聞いた時に、集まった人からたくさん質問が出たのが、すごく良かったね。」

まだニュージーランドに移住して3年目くらいだった私は、なぜ質問が出たらいいんですかと聞いた。

「質問が出るということは、集まった人が話に興味を持って聞いていて、しかも基本的な部分は理解しているということだからです。」と彼は言った。「理解しているからこそわからない部分を質問するのです。」

なるほどと思った。それまで私は、質問が出るのは聞いている人がわかっていないからで、逆に言えば、話をする人が、きちんと全て説明しきれていないからだと思っていた。

だから質問が出るというのは、あまりうまくいかなかったということで、話をする人にとっては悪いことだという考えだった。

でもニュージーランドでは、質問が出るということはいいことだ。

質問をする人は、基本的な部分は理解をしていて、その上で何が理解できていないのか、どこかわからないのかもわかった上で質問する。そんな質問ができる程度の内容になっていたということだ。

何もわかっていない人は、質問のしようもない。

その後、何度か大勢の人の前で話をしたりすることがあったけれど、 ニュージーランドでは、基本的には最後に質問が出るのはいいことだ、という評価だった。それは、話をする側の言いたいことが、集まった人たちに伝わっているということを意味するのだ。

だから逆に、誰かの話を聞いた時に分からないことがあれば、聞き手として積極的に質問をするといい。それは話をする人に対して、自分は基本的には理解しているけれどこの部分だけがわからないということを、きちんと伝えることにもなるのだ 。

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