地毛証明?
一月ほど前、日本の高校一年生にあたるYear 11の留学生と話をしていたら、「毛根検査」があるらしいんです、と言っていた。
その留学生が言うには、「友達が日本の高校に入学したら、学校で毛根検査があると言うんです」とのことだった。よく聞くと、入学した生徒達が髪の毛を染めていないかどうか、頭髪の根っこのところの色を先生がチェックするのだそうだ。
毛根検査という言葉もよくわからないけれど、検査される生徒達がそう呼んでいるのだろう。日本のある高校では、入学した全生徒を対象に、頭髪が生えてきている部分の色を先生がひとり一人確認する学校があるようだ。
その話を聞いて、先生が生徒の頭をのぞき込んでいる冗談のような様子を思い浮かべながら信じられない思いがしていたのだけれど、2~3日前から日本で「地毛証明」というのが話題になっていて、よく似たことがいろんな地域で行われていることを知った。
朝日新聞デジタルの4月30日の記事によると、「東京の都立高校の約6割が、生徒が髪の毛を染めたりパーマをかけたりしていないか、生まれつきの髪かを見分けるため、一部の生徒から入学時に「地毛証明書」を提出させていることがわかった。」とのことだ。
これについては、いろんな意見がブログなどですでに書かれているけれど、私が見たところでは学校のやり方に批判的な意見が多いように思う。
当然だろうと思う。そもそも「地毛証明」という言葉自体が意味不明だ。
地毛証明という限り、地毛でないとダメということだけれど、なぜ地毛でないとダメなのだろうか。新聞で報じられているように、髪の毛を染めたりパーマをかけたりしていることが校則違反だから、違反していないかどうかを確認するために、地毛証明を出させるとのことだけれど、髪の毛を染めたりパーマをかけたりしているかどうかは、基本的には見ればわかることだろう。
「いやいや、何を言っているのだ。もともと黒い髪ではない生徒や天然パーマの生徒がいて、染めたりパーマをかけたりしている生徒と見分けがつかないから、証明を出させるのだ」とおっしゃる方もいるようだ。でも、もともと黒い髪でない生徒や天然パーマの生徒と見分けがつかない程度なら、全く問題ないのではないか?茶色っぽい髪の色やストレートでない髪の毛が、もともとのものでも自分で染めたりパーマをかけたりした結果であっても、見た目の違いがないのなら、どちらも校則違反にならないのではないのか?
「全然違うよ。髪の毛の見た目を問題にしているのではなく、染めたりパーマをかけたりする行為を問題にしているのだ」とおっしゃる方もいるかもしれない。
それがよくわからない。髪の毛の見た目ではなく、家に帰ってから自分の髪を染めたりパーマをかけたりする行為自体がよくない、というのであれば、学校の先生が帰宅後の生徒達のそんな行動までコントロールしようとしていることになる。なぜ学校の外で髪の毛を染めたり、パーマをかけたりする行動自体が学校から責められなければならないのか。
そもそも、地毛証明を求める学校が、髪の毛の見た目を問題にしているのか、染めたりパーマをかけたりする行為自体を問題にしているのか、よくわかっていないようにも思う。
もし前者であるならば、もともと黒髪でない生徒や天然パーマの生徒と同じような見た目であれば問題ないだろうし、後者であるならば、帰宅後の生徒の行為をどこまで規制するのか、髪の毛以外の部分も問題になってくるだろう。
もっと言えば、生徒達はみんな黒髪でストレートでないといけない、黒髪ストレートが「当たり前」で「普通」という前提なのも気になるところだ。もしニュージーランドのマオリの生徒やフィジアンの生徒、イングランドの生徒が在籍していても、地毛証明を出させるのだろうか?みんなと同じように、黒髪のストレートにしなさいと指導するのだろうか。
「何を言っているんだ。留学生は日本人学生とは違うだろう」とおっしゃる方もいるかもしれない。だったら、もし両親のどちらかがマオリの人でもう一方が日本人で、日本国籍を持って日本の高校に在籍している生徒には、地毛証明を出させるのか?その違いは国籍なのか、留学生というステイタスなのか?そうならばなぜ国籍やステイタスが違うとルールが変わるのか?
ニュージーランドの高校には、マオリ、フィジアン、トンガン、サモアン、アジアン、パケハ、など、いろんな生徒が在籍していて髪の毛の色も形も様々だ。もちろん国籍も違うし、留学生として在籍している人も、ドメスティックの学生として在籍している人も、いろいろいる。
ニュージーランドでも、髪型を含めたドレスコードは学校で決められているところも多い。オールブラックスのMa'a Nonu(マア・ノヌー)やJulian Savea(ジュリアン・サベア)選手のような髪型をしていれば、すぐに切りなさいと言われるだろうし、スポーツなどのチームで学校の代表として校外に遠征に行く時のドレスコードは、どの高校でも厳しい規定がある。
でも、普通に清潔にしていれば基本的には問題ないし、ましてや地毛証明を出せなどと言われることはない。そもそも地毛証明を出させるという発想自体がないだろう。
もう一つ気になるのが、全ての先生が進んで地毛証明を出させることに賛成なのかどうかということだ。おそらくそのやり方に疑問を持ちながら生徒には地毛証明を求める先生もいらっしゃるのだろうけれど、そんな先生の意見が学校のやり方を変えるところまで行かない点も少し気になる。
そして、地毛証明の気になるところは、多様性を認めていない点などいろいろあるけれど、やはり、学校が決めたことを、何も考えずに、みんなと同じようにしていればいいのだ、という、学校の生徒に対するその態度が最も気になる部分だ。
ある程度のドレスコードや校則は必要だけれど、地毛証明などという手段を取るのではなく、生徒達が自分でいろいろと考えて、これくらいならいいだろうとか、これはどうでしょうとやってみて、たまには間違ったりもして、そこから先生と一緒にいろんなことを考えていくのが、学校教育の一つの方法なのではないかと思う。
ルール通りにしておけばOK。上から言われたことをみんなと一緒にしていればOK。では、生徒自身が自分で考えて、自分で判断して、自分で行動する態度が身につかないだろう。
まあ、先生にしてみれば、その方が「管理」は楽なのかもしれない。そして、間違ったところから一緒に考える、などという時間は、今の先生方にはおそらくないのかもしれない。
朝日新聞デジタル
「地毛証明書」、都立高の6割で 幼児期の写真を要求も
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