善意でも悪意でも

少し前の話になるけれど、娘と一緒に日本の町を歩いていた。

交差点で信号を待っていると、向こう側のビルの入り口の右側に、足を抱えて座り込んでいる小学生くらいの男の子が見えた。「あの子はどうしたんだろう」といいながら交差点を渡ってそばに行くと、肩をふるわせて泣いていた。

周りを見ると行き交う人は気付いているのかいないのか、男の子には目を向けずに通り過ぎていく。

思わず「どうしたの?」と声をかけると、「ま、ま、迷子に、なった、の」とうつむいて泣きながら一所懸命答えてくれた。近くには親御さんのような人はいない。

「お母さんはどうしたの?一人で来たの?」と聞くと、「お母、さん、と、はぐれ、た。。。」とまだ泣きながら言う。

とにかく落ち着かせることが先決だと思い、「大丈夫、きっとすぐにお母さんに会えるよ。」と言って、「住所はどこか言える?」と聞くと、「引っ越して、きた、ばかりで、住所は、わからない」と言う。

困った。もし歩いて行けるところなら、一緒について帰ることもできると思ったのだけれど、その選択肢はなくなった。

「どっちから来たの?」と聞いてみると、よくわからない、という。もしわかったとしても、目的もなくそちらに向かって一緒に歩いて行くわけにも行かなかったのだけれど。

「じゃあ、一緒に交番に行って、お母さんと何とか連絡が取れるようにしてみよう」と言うと、「うん、」とその子はうなずいて立ち上がった。

「歩ける?大丈夫?もうすぐお母さんに会えるからね。」と言いながら交番に向かって一緒に歩いて行こうとすると、後ろのほうからその子を呼ぶ女性が走ってくる足音が聞こえた。

「お母さんですか?」と聞くとうなずき、男の子にも「お母さん?」と聞くと「うん」と言ったので、引き渡した。お母さんはなぜかその子をしかりつけ、こちらにお辞儀をしながら少し興奮気味に去って行った。

「よかったねぇ」と娘に言うと、「いつも、私には、知らない人について行ってはいけない、とずっと言っているのに、おんなじことを言ってたよ!」と娘が言う。「同じことって何?」と聞くと、「知らない人が、「お母さんがあっちにいるから一緒に行こう」と言っても、絶対について行ったらだめだと言うのに、あの男の子には、お母さんと会えるから、交番に行こう、と言っていたじゃないか」と言われた。

なるほど。善意と悪意のどちらからでも、結果的に同じ言葉が出てくるのだ。

それにしても、今度また町で迷子に出会ったら、どういうふうに声をかければいいのだろうか?

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