ものごころ

あなたの一番古い記憶は何歳のときですか、と聞くと、たいていの人は、4歳とか5歳とか、幼稚園のときです、とか答える。私の一番古い記憶も確か4歳のときのものだと思う。

ものごころがつく、というが、簡単に言えば、それ以前の記憶がない、ということだ。多くの人は、生まれてから4、5歳くらいまでの記憶がない。

常々不思議に思っていたので、娘が生まれてから定期的に聞いてみた。例えば、去年みんなでハミルトンに行ったの覚えてる?とか、日本でおすし屋さんに行っておいしいお寿司をたくさん食べたね、とか、幼稚園に入る前に友達と公園で遊んでいたね、とかだ。

娘が5歳になる頃までは、ほとんどの質問に「ハミルトン楽しかったね」とか「あそこでマグロを食べたね」とか「その友達とは今も遊んでいるね」とかいう返事が返ってきていた。はっきりと記憶の中に残っていたのだろう。「覚えてない」という返事はほとんどなかった。

でも、5歳半を過ぎた頃から、2~3年前の出来事を聞いても、「覚えていない」と答えるようになった。つまり、私が思うところでは、私の娘に限っていえば、5歳半頃までは過去の記憶が頭の中にはっきりとあったのだが、それ以降は急激に記憶が薄れている、ということだ。考えてみれば、ものごころつく前の記憶は、ものごころついた後になくなって当たり前だ。ものごころつく前の年齢でものごころつく前の記憶がない、ということは、つい半年や1年前のことを思い出せない、ということだ。いくら4歳でも、半年前に行った旅行のことははっきりと覚えているだろう。

では5歳前後でものごころがついたときに、それ以前の記憶が急激に薄れてしまうのはどうしてだろう。おそらく、人間が生きていくうえで必要なことなのだろうけれど、それが何故なのか想像がつかない。ひょっとしたら、言葉で抽象的に物事を考えることができるようになってくると、それまで言葉を介さないで具体的な映像か何かで脳に留まっていた記憶を、思い出すことができなくなるのかもしれない。記憶に使う引き出しが変わる、ということだ。

私のような素人がいくら考えても答えは出ないだろうが、実際に3歳、4歳、5歳、6歳と娘を見ているととても興味深い。

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