雨漏りのする家

日曜日はすごい雨だった。ゴーっという音がして、バケツを3つくらいひっくり返した量の雨が、屋根や地面をたたきつけるように降っていた。

大雨が降ると、ニュージーランドで暮らし始めたときのことを思い出す。

ニュージーランドに移住するために到着した時、ロトルアに住むことは決まっていたが住むところは決まっていなかった。だからとりあえずしばらくはロトルアのバックパッカーズホステルで暮らしていた。いわゆるバッパーなので、寝袋で寝て、共同キッチンで食事を作って食べて、共同シャワーで勢いの全くないシャワーを浴びていた。

だからしばらくして、3ベッドルームの一軒家を借りて暮らすことができたときは、天国に来たのではないか、というくらいうれしかったし、とても快適だった。快適だったと言っても、移住してすぐの時にはまだ机も椅子も、もちろんテレビもなく、食器もバッパーのオーナーさんから借りてきたものだった。床に新聞紙を敷いてその上で借りてきた食器を並べて食事をしていた。食事が終わったら新聞紙を折りたたんで片づけが終了するので、とても便利だった。

ベッドもしばらくはなかったけれど、床の上で寝袋で寝るのはあまりにも体がきつかったので、ベッドのマットだけを買ってきて、マットを床の上に敷いてその上で寝袋にくるまって寝ていた。

そんなラブリーな天国のような3ベッドルームの一軒家での生活は、大雨が降ると、さらに楽園のような生活になった。

ある大雨の夜、床に置いたベッドのマットの上で寝袋にくるまって寝ていると、台所のあたりでべちゃっという音がした。見に行ってみると、天井から雨がポタリポタリと床に落ちていた。雨漏りだ。それまでの人生で、家の中で雨漏りがする、ということを経験したことがなかったので、しばらくは天井から落ちてくる雨を、首を上下に振りながら眺めていた。

しばらくすると床が水浸しになってきたので、雑巾で拭いた後、プラスチックのバケツを置いてみた。すると、天井から落ちてくる雨は、べちゃっという音とともに、バケツに少しずつたまっていって、しばらくすると、ポチョンという音に変わった。雨漏り初体験で興奮していたのもあるが、どうもそのべちゃっという音や、ポチョンという音が、家の中の雨漏りに似合わない気がして、どうしたものかと考えた。

台所を探して、これだ!と思ったのが、ステンレス製の鍋だ。子どもの頃、アニメやテレビのコントで見た雨漏りの風景とぴったり合いそうだった。雨漏りの下に置いてみると、期待通り「ポコン」という、雨漏りらしい風情のある音がした。それでも水がたまってくると、ポチョンという音になってしまうので、しばらくしたら水を捨ててまた、ポコンという音がするようにしていた。

寝袋にくるまって、雨漏りを受け止めるステンレスの鍋の音を聞きながら、なぜかとても幸せな気分だった。ニュージーランドに来て雨漏りのする家に住んでいて、その雨漏りを鍋で受け止めている、ということが、とても幸せだったのだ。

それは、「こういうところから始まるんだ。」という、期待通りのスタート地点を見つけた喜びだったのかもしれないし、今までにしたことのない経験をしている、という満足感だったのかもしれない。どちらにしても、寝袋の中で、ニコニコしながら寝ていたことを思い出す。

先日の日曜日の大雨。今では雨漏りをしない家も自分で買ったし、安心して寝られるはずなのだけれど、どうしても、台所に行って天井を眺めてしまう。そして、雨漏りのしない家に住む幸せと、雨漏りのしない家に住んでいる物足りなさを感じるのだ。

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