太陽はずるい

北風と太陽というイソップ寓話がある。

有名な話なのであらすじは ご存知だと思うけれど、 Wikipedia によるとこういう内容だ。
北風と太陽 Wikipedia

「ある時、北風と太陽が力比べをしようとする。そこで、旅人の上着を脱がせることができるか、という勝負をする。

まず、北風が力いっぱい吹いて上着を吹き飛ばそうとする。しかし寒さを嫌った旅人が上着をしっかり押さえてしまい、北風は旅人の服を脱がせることができなかった。

次に、太陽が燦燦と照りつけた。すると旅人は暑さに耐え切れず、今度は自分から上着を脱いでしまった。

これで、勝負は太陽の勝ちとなった。」

そしてここから得られる教訓は、こう書かれてある。

「手っ取り早く乱暴に物事を片付けてしまおうとするよりも、ゆっくり着実に行う方が、最終的に大きな効果を得ることができる。

また、冷たく厳しい態度で人を動かそうとしても、かえって人は頑なになるが、暖かく優しい言葉を掛けたり、態度を示すことによって初めて人は自分から行動してくれるという組織行動学的な視点もうかがえる。」

確かに、さらっと読むと、そうなのか、と思うし、そこから得られる教訓も、普段の生活に使えるだろう。

でもよく見てみると、なんだか変なところがあるのに気づくだろう。

力比べをする時に、旅人の上着を脱がせられるかどうかを競う。つまり旅人はその時にすでに上着を着ていた。上着を着ているということは、絶対に寒い季節だ。少なくとも夏ではない。

旅人はもともと寒かったから上着を着ていた。そんな時に北風がピューピュー吹いたって、上着を脱ぐはずがないだろう。 逆に太陽が出てポカポカと気温が上がれば、上着を脱ぐに決まっている。

太陽はそんなことは最初から分かっていたのだ。つまり太陽は、このルールで力比べをすると、必ず自分が勝つことは最初からわかっていたのだ。ちょっとずるいだろう。

でも、北風はそんなことには気付いていない。元々寒いから上着を着ていた旅人の上着を脱がせるために、さらに寒くする。愚かだ。

そう読むとこの話は、その時の状況をよく見て、自分に有利なルールを設定し、それを相手に提案して、有利なルールの中で話を進めるずるい太陽と、状況判断を誤って、相手の言う通りに話を進めて、結局負けてしまう愚かな北風の話、ということになる。

そこから得られる教訓は、誰かと何かを争う時には、状況をよく見て、自分に有利な、あるいは少なくともフェアなルールのもとで争うこと。もし自分に不利なルールで物事が進むようなら、その争いには参加しないこと。なぜなら必ず負けてしまうから。だと思う。

少し調べてみると、この前にもうひとつ旅人の帽子を脱がせる勝負があったらしい。そしてその勝負では北風が勝っている。旅人の帽子を力ずくで吹き飛ばしたのだ。

なんだそれ?という感じだろう。北風が力ずくで勝ってしまうのだ。もともとの教訓がひっくり返ってしまう。

でもその争いでは、北風は状況をよく見て、自分に不利ではないルールの中で戦っている。そういう意味では北風はきちんとやっている。なぜその後に、コートを脱がせるなどという不利なルールでもう一度争ったのか。そこも北風の愚かな部分と言えるだろう。

日本は今は一年で一番寒い季節だ。 外で帽子をかぶってコートを着ている時に、太陽がぽかぽかと照りつけてきたら、あんたそれはちょっとずるいですよ、と言ってみてもいいかもしれない。

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