忘れるという能力
人間が持っている能力にはいろいろあるが、その中でも、「忘れる」という能力が、生きていく上で最も重要なのではないかと思う。
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今まで見聞きしてきたこと、覚えてきたことの全てをずっと忘れずに鮮明に覚えている人はいないだろう。もし、全てを覚えていれば、その重荷に耐えられないように思う。人は記憶を消していくことで精神的な負担を軽減して、生きていくエネルギーを蓄えているのだと思う。だから、忘れるということは決して悪いことではなくて、むしろ大切なことで、なくてはならないことだ。
これは、最近物忘れがさらにひどくなっている私が、言い訳のように自分に言い聞かせているのではない、ことにしておこう。。。最近、冷蔵庫のドアを開けて、なぜドアを開けたのか全く思い出せないことがよくある。冷蔵庫のドアを開けることを思い立った場所のリビングに戻れば、ひょっとしたら思い出すかもしれないと思ってリビングに戻ると、リビングに座った時点で、もう冷蔵庫のことをすっかりと忘れてしまっている。最近はそれが嫌なので、冷蔵庫をできるだけ開けないようにしているが、冷蔵庫をできるだけ開けないようにしていることを忘れてつい開けてしまう。そのうち、自分がいろんなことを忘れるようになってきたこと自体を忘れてしまうかもしれない。そうなれば、私自身は今よりも少しだけ幸せになれるだろう。周囲はかなり迷惑だろうが。。。
一般的に言って、楽しかったこと、嬉しかったことはいつまでも覚えていたいけれど、辛い記憶をいつまでも鮮明に持っていると、精神的にかなり参ってしまう。特に、その辛い経験自体に加えて、その経験に影響されたその時の自分の感情をずっと記憶していることは、ものすごくしんどくて、精神に大きな負担をかける。だから、辛い記憶とその時の感情は、できることならば忘れてしまうほうが、今の生活を楽に過ごせる。
考えてみれば、人間の記憶なんてものすごくあいまいなものだ。時間が経つに従って細かい点はあやふやになるし、記憶違いも多くなる。そもそもその記憶が事実かどうかも疑わしいこともある。例えば、友人数人と5年前に旅行に行った時のことを話している時、自分一人だけが「あの時こんなことがあった」と言っても、他の人全てが「絶対にそんなことはなかった」と言えば、事実そんなことはなかったことになる。旅行に行ったときに友人と自分だけしかいなければ、だれも事実を証明してくれる人はいない。だから、自分が記憶していることが事実かどうか、極端に言えば本当に起こったことかどうかも、疑わしいとも言える。
そう考えると、個人レベルで言えば、過去のことをずっと覚えているよりも、辛い記憶や経験、そして、覚えている必要のない記憶は忘れてしまって、エネルギーを他に向けて使うほうが、今の人生を生きるにはいい方法だと言える。
忘れるという人が持っている能力をうまく使うことができれば、もう少し楽に生きられるかもしれない。
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