海外旅行
私がこどもの頃は、海外旅行というのは、人生の大きなイベントだった。周りにも海外旅行に行ったことのある友達はほとんどいなかったし、海外旅行に行ったという大人も知らなかった。
大学生の頃、夏休みや春休みなど、友達は初海外旅行に出かける人も多かった。学生で皆あまりお金は持っていなかったが、アジアを中心に海外に出かける人も増えていった。ワーキングホリデー制度も始まり、大学を1年休学してワーホリで海外に滞在する人もちらほらと出てきた。
私も初海外は大学生の頃だった。中学の同級生と二人で最初は九州あたりに旅行しようかと話をしていたが、いつの間にか海外に行こうということになった。なぜ海外に行こうとなったのか今では覚えていないが、その時のなんとなくの決定が後々の私の人生に大きな影響を与えたのは間違いない。
そして、九州旅行の予算で行ける海外として候補に挙がったのがタイだった。当時はまだ伊丹空港から国際線が飛んでいて、タイ航空に乗ってバンコクまで飛んだ。怖いもの知らずだったしめんどくさがりだったので、往復の航空券だけ準備して、初日の宿も予約せずに全く無計画で出かけた。その時点でもまだ九州旅行のノリだった。あいにく伊丹空港出発が数時間遅れてバンコク到着は夕方。そこから電車に乗った。どこで降りるのかも決めずに電車に乗り、結局終点で降りてそして、二人で途方にくれた。暑い、くさい、怖い、言葉が通じない、そこがどこなのかもわからない。重いバックパックをしょって、目に付くホテルに手当たりしだい飛び込んで部屋を探したが、なぜか皆断られた。満室だったのか、私たちの見かけが汚かったのか、断られた理由が未だにわからない。
初海外でいきなり野宿かと腹を決めようと思っていたところ、見ず知らずのヨーロピアンの若い男性が話かけてきて、安い宿があると紹介してくれた。走っているトゥクトゥクという3輪バイクを止めて行き先を伝えてもくれた。そして初日は、その青年が紹介してくれた名前も知らない、住所もわからない安い宿に泊まった。
今から考えると危険極まりない話だ。でも、それから約2週間の滞在中思いがけないこともたくさん起こったが、多くの人に助けられて無事帰国できた。
今でもはっきりと覚えているのは、帰国してから初めて大学に行ったとき、以前と景色が違って見えたことだ。見える建物や人々は変わらないのに、自分の中の何かが変わっていたのだろう。それほど初海外は衝撃的な経験だった。
最近、海外に行く若い人が減ってきているという。20代の人口が減ってきているのだからしょうがないという意見もあるが、海外滞在に求めるものが変わってきているのかもしれないと感じる。
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