人生そう甘くないことを悟る
14年前に日本で勤めていた仕事を辞めて、ニュージーランドに職探しに来た。オークランドからインバカーギルまで、夫婦でバックパーカーズホステルに泊まりながら、3か月間くらいうろうろと仕事を探した。日本から来た私たちをニュージーランドの人たちは温かく迎えてくれた。日本からアポイントを取ってお会いした人たちだけではなく、飛び込みで訪問した先でも、仕事中にもかかわらず時間を取って話を聞いてくれた人もたくさんいた。今でもとても感謝している。
ある街で、長年ニュージーランドで暮らしているという日本人の女性にお会いすることができた。彼女はニュージーランド人と結婚して、ニュージーランド人の中で長年働いていた。日本語でいろいろと話を聞いたのだが、その人は話の途中でたまに「うーん」と考え込む時があった。普段ずっと英語を使って生活をしているので、適切な日本語が出てこないからだった。それを見て、「私もいつか、英語環境で生活して、日本語が出てこないくらいになれればいいのに」と漠然と思ったのを覚えている。
ニュージーランドで暮らし始めて約14年。先日日本語で話をしていて、「うーん」と口ごもってしまった。適切な言葉が出てこなかったのだ。「私もとうとう14年前に漠然と目標にしていたところまで来たのか」と一瞬思ったが、「うーん」の後に、日本語の言葉もそして英語の言葉も出てこないことに気がついた。英語の生活によって日本語が出てこなかったのではなくて、単に歳をとって頭の回転が遅くなっていただけだった。
14年間ニュージーランドで暮らして学んだことは、人生そう甘くはない、ということだけだった。
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