ニュージーランドで就職すること
ニュージーランドには、当然のことだが大学生の新卒一括採用という制度はない。そもそも大学進学率は日本ほど高くないし、20歳前後で就職した企業に定年まで働き続けるという人もほとんどいない。
ではみんなどうやって職に就いているのか。多くの人は高校を卒業後、あるいは高校の途中で仕事を始める。また大学や専門学校に行く人は、高校卒業後1年から4年間学校に行ってから仕事に就く。
例えば高校卒業後に仕事に就いた人が、5年後にもっと給料の高い仕事を探したいと思ったとする。彼が持っているのは、高校で取った資格、例えばNCEAのLevel3 の資格などと、5年間の仕事の経験だ。その資格と経験を生かして、次のステップの仕事を探す方法が一つ。もう一つの方法は、専門学校や大学に行って新たな高い資格を取ってから仕事を探す方法がある。
ニュージーランドで企業が求人を出したとき、送られてきた履歴書の何を見るかというと、資格と職歴だ。もちろん他の部分やCVの書き方なども見られるが、資格と職歴が求めている人材と大きく離れている場合は、他の部分がいくらよくても面接まではこぎつけない。つまり、職に就けるかどうかは資格と経験でほとんど決まると言っていい。また、ニュージーランドでは、年齢や性別、国籍や民族などを採用の基準にしてはいけないことになっている。履歴書に年齢や生年月日、性別や国籍などを書く必要もない。
だから、高校を卒業後5年経ってから専門学校に2年間通い、高い資格を取って仕事を探すことも十分に可能だ。ニュージーランドの人は、専門学校や大学に行って資格を取ることを「トレーニング」と表現する。つまりトレーニングによって自分の能力と資格を高めるために、専門学校や大学に行くのだ。また、専門学校や大学の授業料は国から借りることもできるし、学校に通っている間の生活費の補助も国に申請してもらうこともできる。一定期間職がなくても、パートタイムや短期の仕事で何とか暮らしていくこともできる。そして20代後半でも、高い資格とある程度の経験があれば、職を探しやすくなる。
ただ、このシステムはいいことばかりかと言えばそんなことはない。いくつになっても専門学校や大学に通って資格を取って、より収入の多い仕事に就ける可能性がある、ということは、言い換えれば、一定の期間の経験や資格のない人は、いくつになっても収入が上がらない、ということだ。つまり、年齢とともに収入を上げようと思えば、自分で経験を積んで高い資格を取っていく必要があるのだ。これはかなりしんどい。
ポリテクニックなどに行くと、30代、40代、50代の学生もたくさんいる。中には、保育所、小学校、中学校に通う3人の子どもを持った女性なんかもいる。勉強をしながら子どもを育て、家のこともやるのはものすごく大変だ。その上仕事を持っているという人もいるので頭が下がる。みんな高い資格を取るために、睡眠時間や自分の時間を削って一生懸命勉強をしている。そしてその結果、資格が取れるのだ。さらに資格を取ったからといって必ず仕事があるという保証は全くない。特に景気が悪いときはなおさらだ。
日本にもキャリアアップ転職などと耳に心地よい言葉もあるが、それを実現するためには、大きなエネルギーと時間、集中力と根気、そして経済的な保証と周囲の理解が必要だ。まさに、自分と戦いながら資格を取って、それを職に結び付けていく作業だ。
でも、いくつになっても学校に通い、資格を取って職を探すチャンスがある、というのは、人生自分の力で何とかなる、と思わせてくれる。言い換えれば、自分が動きさえすれば、希望は持ち続けることができるという自信にもつながる。
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