NZでプロになる夢を追う日本人ラガーマン

ロトルアでラグビー高校留学を3年間した後、タウランガのポリテクニックでスポーツ学を3年間学び昨年12月に卒業した元学生が、先日久しぶりにうちに訪ねてきてくれて、ゆっくりと話をすることができた。

彼は15歳の時、日本の中学を卒業後一人で飛行機に乗ってロトルアにやってきて、ロトルアボーイズハイスクールでラグビー高校留学を始めた。最初は英語も全くわからずに苦労していたし、留学3ヶ月目くらいに一度体調を崩し、学校を休んでうちに3日ほどいたこともあった。でもそのうちに、現地の友達をたくさん作り、ラグビーでもだんだんと頭角を現すようになってきた。

1年目の留学が終わり、11月末に初めての一時帰国をして翌年の2月にロトルアに戻ってきてしばらくしたとき、彼はとてもしんどそうだった。話を聞くと、「12月、1月はみんな夏休みでラグビーのトレーニングも休んでいると思っていたんですが、実は休み中もきちんとトレーニングをしている奴はしていたんです。僕は日本に一時帰国して、おいしいものをたくさん食べて、ほとんど運動もしていなかったので、筋肉が落ちた上に脂肪もついて、体が動かないんです。」と言っていた。

そんな2年目の留学生活も2軍でがんばってシーズンを終えた。そして、Year 13 になる前の一時帰国のときには、同じ間違いを犯さないように、日本でもトレーニングを続けてロトルアに戻ってきて、3月には留学先の高校で日本人で初めての1軍に選ばれた。ロトルアボーイズハイスクールは、多くのオールブラックスの選手を輩出し、ニュージーランドのナショナルチャンピオンにもなって、日本で行われているサニックスユース大会でも2度優勝したラグビーの強豪高校だ。その学校で1軍に選ばれるのは、かなり難しい。その学校で日本人留学生が1軍に選ばれたのだから、本当にすごいことだ。

でも、1軍でプレーしている時期に彼は少しまたしんどそうだった。話を聞くと、「現地のニュージーランド人選手の中には、僕が日本人なのに1軍に選ばれたことに不満を持つ奴もいるんです。1人1軍に入ればその分1人入れないという厳しい世界なので、1軍から外れた奴の気持ちとしては当然といえば当然なのですが、日本人だから1軍にふさわしくない、と言われるのがいやなんです。自分は日本人だけれど、自分でがんばってこのポジションをつかんだんだから。」と言っていた。

彼の夢は、当時も今も日本人初のオールブラックになることだ。だから、高校留学後もニュージーランドに残ってクラブチームでプレーを続ける必要があった。そして彼はベイオブプレンティポリテクニックに進学して、スポーツ学を学ぶことにした。タウランガは、ロトルアから車で1時間ほどのところにある海の街で、ベイオブプレンティスティーマーズというプロのラグビーチームの本拠地でもある。

タウランガに移ってしばらくして連絡をすると、彼はまた少ししんどそうだった。話を聞くと、「ロトルアの高校では、最初は、日本人だというだけでラグビーはうまくないだろうという先入観で見られていたのを、何とか自分の実力で1軍まで行くことができた。ロトルアボーイズハイスクールの中では、僕の実力はある程度認められるところまでいったと思う。でも、タウランガでは、また一からやらなければならない。日本人でもちゃんとラグビーの実力があるのだということを、自分の行動で周りに認めさせるところからやらなければならないんです。」と言っていた。

そんな彼も、ポリテク留学2年目には、地元タウランガの新聞でクラブラグビーの試合での活躍が写真つきで取り上げられるようにまでなった。そして、途中でクラブチームを変わり、その後はプレミアリーグ、つまりクラブチームの1軍の大会でもずっとレギュラーで出場し続けていた。当然タウランガでも友達もたくさんできて、周りの信頼も得て、ポリテクの留学担当のスタッフからも、「彼は私たちのヒーローだ。」とまで言われるようになった。

ポリテクの勉強はかなり苦労したようだが、昨年12月に卒業して、今年からタウランガでの仕事のオファーをもらうことができた。その仕事も周りの人に助けられて見つけたようだが、仕事を紹介してくれる人がいるということは、それだけ信頼されているということだ。

高校留学中私はロトルアでずっと彼のことを見守っていたのだが、先日話を聞いて、私も知らなかった話をいくつか聞いた。私が、「ラグビーではこの6年間、ほとんど大きな怪我をしなかったね。」と言うと、「もう10年くらい毎日ストレッチは欠かしたことがありません。」と当たり前のように彼は言った。10年くらいということは、高校留学中もずっと毎日欠かさずストレッチをやっていたということだ。

また、「久しぶりに見ると、体が大きくなったね。」と私が言うと、「高校留学中から、体を大きくして体力をつけるためにいろんなことをしていました。例えば、高校留学中も毎日1時間くらいは走っていました。寮の夕食が終わって宿題の時間にそっと寮を抜け出して、一人街中を走ったこともあります。」と言っていた。

そして「今日はビールでも飲む?」と私が聞くと、「いただきます。でもいつもはビールは飲むのを制限しているんです。」と言っていた。「例えば、土曜日に試合がある場合は、金曜日には絶対にビールは飲まないです。そして、特に金曜日から土曜日の試合前にかけては、食べるもの飲むものにかなり神経を使います。試合前に飴玉を一つ食べても、試合に影響を与えるんです。それは理論をポリテクでも勉強しました。だから、いつステーキを食べるかとか、甘いものはどのタイミングでどのくらいの量を食べるかとか、シーズン中はかなり気をつかっています。」と言っていた。

かなりストイックな生活の内容を聞いて私が、「それくらいきちんと食事に気を使っている人は、クラブチームの選手でどのくらいいるの?」と聞くと、「うーん、半分くらいはいるんじゃないんでしょうか。」との答えだった。クラブチームの選手はプロではなく、仕事をしながら夜に練習をしている人たちだ。それでもかなりストイックに食事制限をしているのだそうだ。プロのラグビー選手になるともちろん全員がそういう生活をしているのだろう。

「だから、1シーズン20週間というのは、すごく適切な長さだと思います。シーズンが終了したらしばらくは思い切り好きなものを食べますから。もしラグビーシーズンが1年間のうち40週間もあったなら、精神的に持たないです。」と言っていた。それだけシーズン中は厳しい自己コントロールをしているということだ。

今年から彼は、タウランガで働きながら引き続き同じクラブチームでプレーをして、プロ選手になるチャンスを待つ。

彼なら必ずチャンスをつかんで、ニュージーランドでプロ選手として活躍する日が来ると思う。心から応援しています。

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